作品とストーリー性の関係とその重要性③

次は僕が人生で一番ハマったアニメコンテンツについて語ろう。

 

 

 

【彼女たちの活動こそストーリー、あまりにも異質ながらも真っ当な輝き方をしていた声優アイドルユニット Wake Up, Girls!】

 

Wake Up, Girls!は主役7人の声優が81プロデュースとavexが共同でオーディションを行い、プロダクションに所属していない一般人から選ぶ、というコンセプトの元に生まれたアイドルアニメとその声優達が実際にユニットとして活動する企画である。

 

アニメーションと声優たちのユニット活動のどちらもWake Up, Girls!であるためこの記事ではそれぞれを「2次元 Wake Up, Girls!」、「3次元 Wake Up, Girls!」として区別し、今回は3次Wake Up, Girls!のストーリー性について解説していく。

 

 

 

さて、アニメーションとアイドルという今日では新たなジャンルになりつつある2足の草鞋スタイルは結構な数あれ、ここまで異質なものはなかっただろう。

 

なぜならば、アニメーションの方のWake Up, Girls!が途中で監督からスタッフからその方向性からまるっと変わってしまった結果、3次元のWake Up, Girls!は独自の成長を遂げたからだ。

 

当時Wake Up, Girls!みたいなスタイルの作品では2次元>3次元であることが多く、3次元の活動は主に2次元に依存しているものが多かった。

 

アイドルマスターラブライブなどと比べてもらえばよく分かるだろうが、これらはよくゲームやアニメで公開された曲などを用いてライブを行う。

 

この手の3次元の活動とは2次元から発信された情報を3次元の受け手が超えられない液晶の向こう側に疑似的に行くための手段として逆にコンテンツを3次元にしてしまおうというものだ。

 

Wake Up, Girls!最初こそその形で活動していたが、途中から製作者側の都合によって2次Wake Up, Girls!が概念から揺らいでしまい結果変化せざるを得なかった。

 

そこで彼女たちは2次元 Wake Up, Girls!とは異なった変化を選んでいったのだ。

 

Wake Up, Girls!はもともと東北地方太平洋沖地震東日本大震災)の発生を受けて東北地方を舞台にした。地方の活気づけをすることを目的とした作品であり、その内容にも宮城県仙台市を中心として夢を追う少女たちを泥臭くリアルに震災と絡めながら描いた物語であった。

 

しかしアニメ2期(スタッフが交代後)では、彼女たちの平和な日常を描いた描写が多くあり、またその内容もどんどんと東北から離れていった。

 

そういったものが悪いとは言わないが、物語の軸がぶれていると言わざるを得なかった。

 

 

 

つまりはストーリー性がちぐはぐになり、何を受け手に伝えたいのかわからない程に作品が破綻してしまったのだ。

 

そうなると3次元のWake Up, Girls!は自分たちの方向性に迷う。

 

東日本大震災の復興支援を掲げていただけに、2次元 Wake Up, Girls!の方向転換は他の作品のそれとは意味合いが変わってくる。

 

被災地からの応援が大きかった分、その反動は大きい。

 

実際に東北でWake Up, Girls!の活動を楽しみにしていた人からも不安な声が多かったという。

 

 

 

そんな状況で3次元 Wake Up, Girls!はどうアクションしたのか。

 

 

 

 

 

彼女たちはアニメから実質的な独立をしたのである。

 

彼女たちはアニメーションでは触れていかなくなった東北を盛り上げるために宮城県のPR活動や、Wake Up, Girls!の名前のまま他のアニメ作品のOPやED曲を担当したり他のアーティストとコラボレーションし楽曲を発表したりライブのセトリを本人たちがある種の信念をもって決めていたり、とその活動範囲は2次元 Wake Up, Girls!の枠外から大きく外れていた。

 

宮城県のPRはその他の内容のまとめみたいな立ち位置なので最後にしよう。

 

まずは他のアニメのOPやED曲をWake Up, Girls!名義で歌っていたこと。

 

ライブでは「タイアップ曲」と称されていた。

 

 

そして大事なのはWake Up, Girls!として歌ったということだ。

 

 

タイアップ曲が発表され始めたのは一応旧章(復興支援の意味合いが強かった頃)ではあるが、2次Wake Up, Girls!の旧章と新章の空白の1年間であり、正直プロジェクトそのものの存在さえ危ぶまれていただろう時期だった。

 

アクションを起こさない、または起こせない2次Wake Up, Girls!と共倒れのような状況から脱出するための一つの方法だったのかもしれない。

 

ここから読み取れることは、もともと自分たちの作品がありながらもそれでもWake Up, Girls!として歌ったということに、アニメーションとの切り離しをもっといえば3次Wake Up, Girls!をアーティストとして独立させる為の活動ではないのだろうか。

 

タイアップ曲はいくつかあるのだが、今までのWake Up, Girls!では歌ってこなかった雰囲気のものが多くあることもこの推測を助長させる要因になっている。

 

そんなタイアップ曲たちだが、それ自体にはあまりここで触れはしないので、楽曲について気になった人はぜひ調べてみてほしい。ライブでもかなり盛り上がる曲ばかりなのでWake Up, Girls!をしってもらう入り口としてもお勧めできる。

 

 

 

次に他のアーティストとのコラボレーション。「マクロスF」でシェリルパートを担当したことでも有名な「May'n」とのコラボ楽曲のことである。May'nは以前からWake Up, Girls!のファンだったこともあり彼女がWake Up, Girls!のスタッフに会うたびに自分はWake Up, Girls!が好きだと伝え続けた結果の産物らしい(本人談)

 

コラボした楽曲ではWake Up, May'n !の名義になっていて今回限りのユニットとして歌っているのだが、これも2次元からの縛りがない故の活動だと思っている。

 

 

 

セトリを自分たちで決めだしたこともアーティスト色を強く出している要因の一つだ。

 

明確にいつからかは把握できなかったのだが、彼女たちは伝えたい思いをセットリストに乗せてライブに臨むことがあった。

 

その中にはいつも東北への思いが込められていた。

 

時にはOPで、時には着替え中の間の映像で、またある時には曲の途中で、東北の映像や写真や彼女たちの震災へのメッセージを発信し続けていたのだ。

 

ライブは盛り上がることを重要視するので、これをするとライブとしてはよろしくはないのだろうが、ファンにより東北のことを知ってもらうためもといファンに思いを伝えられる手段が限られているために選んだ方法だろう。

 

これらを語るときの彼女たちは表情から笑顔が消える。

 

ライブであっても重々しい口調でファンに伝えてくる。

 

商品的な価値に重きを置き、震災の復興から離れていったアニメーションにはないものだった。

 

それほどに2次Wake Up, Girls!のライブと3次Wake Up, Girls!のライブは存在理由が違っていた。

 

 

 

そして、宮城県のPR活動。

 

これは主に東北イオン「にぎわい東北」キャンペーンのことである。このキャンペーンは「安心して暮らせる一日一日の積み重ねが笑顔溢れる未来につながる。日々のお買い物を始め、地域のくらしのあらゆるシーンに寄り添うことで、地域の支えになるための、自然豊かで災害に強いまちづくりの実現」を目指した活動だ(公式HPより一部抜粋)

 

Wake Up, Girls!はその中でもにぎわい東北のキャンペーンソングを担当していた。楽曲名は「TUNAGO」。

 

7人のグループなので1人1文字ずつで「TSUNAGO」の案もあったらしいが東北6県をイメージした6文字であり、メンバーが主導で歌や振り付けを構成している。

 

MVは宮城県石巻をバックに日和山公園で映し出されるもので、場面が切り替わってもそれらは石巻のいずれかで撮影されており、派手な演出はなく、彼女たちのプロモーション以上に被災地の現状を知ってもらうきっかけとしての狙いがあったのではないだろうか。

 

3次Wake Up, Girls!がどれほど東日本大震災について考えていたかがそれだけで十分に伝わってきた。

 

そして、後に開催される「TUNAGO東北ろっけんソロイベントツアー」。メンバー一人一人による東北でのツアーである。

 

この時の僕はまだWake Up, Girls!について認知していなかったためこのツアーには参加していないが、各メンバーが東北での思いや他のメンバーがいない中で明かされるWake Up, Girls!への思いがしっかりと伝わってくる内容だったと聞く。

 

つまり3次Wake Up, Girls!は東北への気持ちを忘れていなかった。

 

2次Wake Up, Girls!では表しきれなくなった存在意義のようなものを証明しようとした結果、旧章を引き継ぐように独自の成長を遂げたのである。

 

ここがこの作品の恐ろしいところであり、また僕が強く惹かれた部分でもあった。

 

前回と比べると結構な分量を書いてしまったが、とどのつまり作品のストーリー性とは、まずアニメとリアルという平衡した2つのストーリーと2次Wake Up, Girls!が今までのコンセプトから一新されたときに3次Wake Up, Girls!が分散されていたコンセプトの大部分を引き受けたこと、更にはそこから進化していく成長過程や彼女たちの生きざま自体がストーリーになっていること、と複雑に絡み合った作品であり濃厚なストーリー性になっているのだ。

 

以上で作品とストーリー性の関係についての記事は一区切りつくことになるが、これからは物語をストーリー性を感じながら見てみるのも面白いのではないだろうか。